だいありー

ブログだなんてとても言えない、個人的な走り書き置き場です

いつの時代も変わらない、家族ゆえの難しさ ~「夜への長い旅路」を観劇して~

約一年振りの舞台観劇。2階席なのに双眼鏡を忘れるという大失態をしでかし表情など見られず…それでも心を揺さぶられることが多過ぎたので、感じたままに走り書き感想を残すことにした。


 

 

舞台は、セットの転換が無く、一家の別荘での一日が会話メインで進んでいく。

その中で個々の過去話等も語られるから、とにかく台詞量が凄まじかった。長台詞の嵐!もっと予習していけばよかったな…。

そんな構成だからこそ、ママ役の大竹しのぶさんのセリフの聞き取りやすさと表現力が圧倒的だった。

ヤク中ならではの情緒不安定さを表現しながらしっかりと言葉を伝えるのは、しのぶさんの女優の経験値そのものだと感じた。

偶然にもお誕生日公演に入らせてもらえて、御歳64歳だと知りなんてパワフルで可愛らしい方なんだと更に驚いたよ。改めて、おめでとうございます。

 


シンプルなセットの上空に開演前から吊るされ、時に揺れたり部屋を覆ったりする白い布。

それが場面に合わせて、霧・海の波となり、ラストにはウェディングドレスにまでなってしまう演出の発想に度肝を抜かれた。

また、ジェイミーがピアノに触れるシーンのBGM。稽古中に大倉さんが偶然弾いた和音を元にして作られていた事を公演後にパンフレットで知ってびっくり。本当に弾いているように見えたのはそういう事だったのか…なんと素敵な制作秘話。

 



ストーリーに触れていく。

メアリー(ママ)は、役者として各地を飛び回る夫ジェイムズ(パパ)の生活に寄り添いつつ、孤独な出産と育児を乗り越えるのに必死になるあまり、長男ジェイミーが次男の命を落とす事故を防げなかった。

そして亡くした子を忘れようとエドマンドを出産したが、産後の肥立ちが悪く薬を処方されそこから依存が始まる。しかしケチなパパはお金がかかるからとママの薬物依存を治療する努力をしなかった。


そもそも次男を亡くした事故は巡業中のパパがママを呼び出し子ども達から離れた時に起きたのだから、元凶はパパお前じゃないかと私は思ってしまったよ。とにかく序盤はママに同情した。


家庭は二の次で妻に全てを任せてる夫、今の世の中でも沢山居るんじゃない?現代で俗に言うワンオペ育児に近い部分もあるのでは。

1幕の終盤、夫と息子達の外出中に想いを女中に吐露するママ…観ていてとても苦しかった。


(余談だが、うちの夫は子守りを頼んでも子ども放置して寝てたりするので、その間にもし何か事故が起こったら…私はどうするだろうな…ははは、笑えない話)


更にパパときたら、結核をを患うエドマンドの病院選びも安さ重視で選ぶんだもの、息子の命より大切なのはお金なの?

2幕でエドマンドが感情剥き出しでパパを責めるシーン、いいぞいいぞもっと言ってやれの気持ちだった。

でもパパがケチで金の亡者だったのには幼い頃貧しかった過去も絡んでいて…確かに可哀想ではある、けど、私はパパに同情しきれなかった。

だがしかし、エドマンドはパパを哀れむのよね。家族を嫌いになりきれないのってこういうことなのかな、なんて思った。




大倉さんがwebで「愛してあげて下さい」と言っていた兄ジェイミーについて。

下の子が生まれたら上の子は思ったように構って貰えず寂しさから嫉妬する、というのは兄弟育児あるあるとも言える話。

ジェイミーもまさにそれで幼い頃から両親の愛に飢えていた。

パパの協力も得られず宿を転々とする中で孤独に子育てをしてたのだから尚更ママに構って貰えなかったんだろうな。


そして7歳の時に弟(1歳くらい?)の部屋にわざと入って麻疹をうつして死なせてしまい、ずっと恨まれ続ける。さすがにこれはジェイミーが可哀想。

部屋に入ったのは確かに悪いけど、まさか本当に死ぬなんて思わなかったはず。

まだ7歳なんだし、ちょっとママの気を引こう、という軽い気持ちでやったのでは?

ママも既に日々の生活に参っていて限界を感じていて、その後もずっと落ち着いてジェイミーの気持ちを考えられなかったのかな。

(さっきも書いたが、次男を亡くす事故は巡業中のパパがママを呼び子ども達から離れた時に起きた訳だし、大人の責任も大いにある。)


亡くした子の代わりにエドマンドを産み育てるという発想もしんどいし、その事実を知った上で兄弟は仲良く出来るの?と思った。


ジェイミーは酒と女に溺れ、ひねくれたことばかり言う。

それでもパパから貰ったお小遣いを半分兄にあげる弟。酒代に消えるのになんと優しい…。

ジェイミーも、結核を患う弟が飲酒しようとした時に心配したりと、兄らしい姿も見られる。


そして「俺に近付くな。用心しろ。」と、言い方は滅茶苦茶ながらに弟を思うジェイミー。

弟を愛してるからこそ、どうしようもない自分から離れた方が良いと言っちゃうの…苦しいな。


エドマンド(実際はユージーン)自身が綴った話だからこそ、彼の記憶の中の優しい兄像が感じられたようにも思う。


大倉さんと杉野くんのぶつかり合うお芝居、引き込まれたよ。



最後に。

タイローン家は不幸が重なり狂ってしまった家族のように見えるが、どこの家庭でも歯車が狂うきっかけは日々に沢山落ちていると思う。だから他人事には思えなかった。

各家庭が抱える諸々の問題は正論ではどうにもならないことだらけ。でも大切な家族のことだから向き合わなくてはならない。大切な家族のことだから願望が大きくなる。

全てがうまくいっている家庭なんてあるのかな。


私自身まだ家庭を持って数年なので、家族とはどうあるべきものなのか手探りで日々もがいているが、うまくいかないことだらけで苦笑いの日々。

なので、ママが結婚する前のシスターになりたかった夢に逃げるように依存する気持ちもなんとなく分かる。

解釈違いかもしれないけど、一幕でパパとママの馴れ初めを当時のときめきを再現しながら語っていたのを観て、ママは結婚そのものに憧れていたようにも感じた。(そこも私自身と似ていて痛かったりする…笑)

でも結婚を決めた時、幸せは確かにそこに有り、その後も幸せはずっと願われ続けていたのよね。

一家がいつどこをどうしたらよかったのか、理屈で語れるほど簡単なものではないよな…。


タイローン家のこの話を通して、私は哀れんだというよりは、家族はやはり難しいものだと改めて思い知らされた気分。

みんな愛を持っていて、ぶつかったり寄り添ったり、一生懸命生きているはずなんだけどなぁ。


咀嚼しきれなかった台詞も多々あるので、もう一回観劇したらより家族一人ひとりの愛を感じる事ができたのかもしれない。

ノンフィクションだからこそ、もっとタイローン家のことを知りたいと思った。



色々と制限されるこのご時世に全40公演の完走、本当にお疲れ様でした!